火葬の日1

2004年12月3日
自宅の醍醐味、起きたのは朝の9時。
このところ、早かったからねぇ。
彼は先に起きてたわ。
起きてまず、安置室や斎場でやらなければならない儀式的な手順を、父の葬儀を思い出しながら、一通り彼に説明したの。
焼香、二人で箸を持って一緒に骨を摘むことなど、彼が避けるべきと思われる宗教行為をチェックして、対応を考えておくってわけ。

10時45分ごろだったかな。自宅を出たわ。
悩んだのは服!
喪服か黒っぽいスーツかと悩んだんだけど、いずれ着ようと思っていたベージュのチェックのマタニティワンピースを着て、上に薄いベージュの綿のコートを着たわ。
今思えば、こういうとき用に、帽子を買っておくんだったなー。
惨めっぽいのも、哀れっぽいのもいやじゃない。
彼はあたしにあわせて茶の、イタリアンスタイルのスーツを着ることにして。

そしてまずは、区役所に死産届を出すのよ。
で、埋葬許可証をもらうの。
通常の死亡届といっしょよねぇ。
戸籍に掲載されないってだけでさ。
結局、12時30分には病院に着いて、昼食。

13時30分に、待ち合わせ場所である、分娩フロアのエレベーター前に行ったわ。
自分が処置を受けたNICUも、このフロア。
エレベーター前の待合室では、娘の出産を待っているらしき年輩の夫婦を含めた数人の家族がいたのよ。
助産師や看護婦の「もう生まれました」「かわいいですよ」などの声が聞こえるし。結構正念場よね。
で、驚いたのは、待合室の前を、たまたまドクターグレイが通りかかって。
彼が先に気づいて会釈。ドクターグレイは、「なぜいるんだ?」というような怪訝な顔をしつつ通過してったわ。

14時を少しまわって業者さんが登場。
助産師に声を掛けて、遺体を持ってきてもらって、包んでいるタオルごと受け取ったの。婦長や私を担当してくれた数人の助産師が出てきてくれたので挨拶したわ。
「他にも担当者はいますか?」と聞かれて、あたし、数人の名前を挙げたんだけど、全員を思い出せなかった。もう、悔しいったら。

そこからは業者と彼と私と三人で、地下の安置室へ。
業者がもう一人、待機してた。
小さく区切られた部屋が二室ほどあり、そのうちの1室に通されたの。部屋の正面に、白い布を掛けた折卓と思しき台があり、その上に、小さな棺おけがあったわ。
その上には、青銅色の仏像が、壁に作りつけてあるガラス戸の棚に入ってて。
部屋の側面には白い布を掛けた同じ台に造花を生けた壷が2つ、並んでて。
「クリスチャンだから焼香はなしです」と業者が、待機していた同僚に声を掛けてた。
その後、あたしに向かって、
「頭はどちらですか」
「こっちです」
遺体を業者に渡し、業者が棺おけに遺体を入れる。
側面にあった折卓を棺おけを置いた折卓の前に配置すると、ちょうど、花の間に棺おけが来て、その正面に仏像が来る配置に。
「合掌だけ、お願いします」
って、業者は退室。外で、電話をしている声。
「もうご遺族、準備終わってるんです。クリスチャンなので焼香はなしで。火葬場、もう行けますか?」
あたしだけ、合掌。
電話を終えた業者が入ってきて、「ちょっと喪主の方に書いていただく必要のある者があるので、ご主人、お願いできますか」
このことについては、彼とあたしは相談していなかった。だからあたしが、勝手に判断して、業者の言葉に従わず、自分で各種書類に記入したわよ。
喪主の欄には、あたしの名前。遺児の名前を書く欄もあって手が止まったけど、書かない旨伝えたわ。
その後、再び安置室に。
花の置いてある折卓をよけて、棺おけに近寄り、蓋を開けて顔を眺めて過ごしてた。
助産師が一人、安置室に来て合掌。他の助産師も来るとの事。
3人の助産師が続けてやってきたわ。
合掌はなく「お顔を見せていただいていいですか」と言われて、どうぞと案内。
「かわいいね」などと言われてた。
助産師があたsに「つらいと思うので、ゆっくり休んでくださいね」「いろいろ話を聞いてくれそうな旦那さんでよかったね」などの声を掛けてくれ、夫には「奥さんをよく支えてくださいね」「労わってあげてね」と声を掛けている。やっぱり父親は損だ。
準備ができたとのことで、棺に蓋をし、移動。
「ご遺族の方、どうぞ」
と棺おけを持つように指示されたので、あたしが。
手触りは、ざらざらしていた。重い。あたし小柄でしょ、棺はそれなりに大きいので手がまわりにくかったから、余計重く感じたわよ。
で、そんなときに限ってエレベーターがなかなか来ないの!
助産師が「だいじょうぶ?」と声を掛けてくれたくらいよ。
彼に「こんなに重くなるくらい、育てばよかったのにね」なんて殊勝なことを言ったわ。

案内されたところは、外に通じる出口で、軽自動車が待機してた。婦長さんも見送りに来てた。
「お世話になりました」って皆さんに挨拶して車に乗る。
棺は膝の上に載せた。重さが膝に来たわ。
タオルはともかく、保冷剤も一緒に燃やして大丈夫なのかしらなんて思って。
車が発車し、病院の門に向かう。婦長さんたちは、見える間ずっと、あたし達を見送ってくれていたの。最後に手を振ったわ。
広尾の高級住宅街を抜けて目黒方面、そして斎場へ。
あたしが、「あー、金ほしい」なんて言ってるあいだ、彼が「この子の初めてのドライブだね」と言うのよ。
今回、皆して、あたしを泣かせにかかってると思ったわね。
車の右手から入ってくる西日が眩しかったわよ。

桐ヶ谷斎場に到着。斎場なのに、赤いコートの婦人が目を引いたわ。
門を入ってすぐ左の建物の前で下りる。屋内に、窯の扉が10個ほど並んでて。
業者から、焼く窯のところに名前を出さなければいけないと言われたから、姓だけで、と。
業者が何処かに行った後、戻ってきて「朝田 男児 殿」になった、と言われたわ。
右から3つ目に案内され、棺をステンレスの台の上に置いたの。
「クリスチャンだから焼香はなしです」と、焼香台を出しかけた斎場の社員を、業者が押しとどめてて、この言葉、もう何回目かしら。
窯の扉が開かれる。ステンレスの台から、窯の中の台に、棺が移って行く。釜の中とその台は黒く煤けている。
窯の扉が閉まり、焼いているということが分かるようにランプが灯り、斎場の社員が合掌する。
終わるまで1時間ほど係るんですって。
業者から斎場の案内係へと私達は受け渡され、待合所に案内されたわ。円卓が5つ並んでいて、テーブルの上には湯飲みと大きな急須と手拭、乾き物や折り詰め、ビールなどのメニューが置いてあるのよ。おきまりねぇ。
案内された場所でお茶を飲んでたら、隣のテーブルに6人ほどのグループが座り、後から坊主が来たの。親族の一人が坊主に心づけを渡してたわ。で、これもパターンの坊主の説教開始。彼は、珍しいらしくて、それを面白そうに聞いていた。
あたしはトイレに立ちがてら、斎場の中を見て回ったわ。
だって、芸能人が、葬式やるようなとこなのよ。見なきゃ、損じゃん。
あたし達がいるところとは違う、個室になっている広い待合室が10ほど、業者用の待合所、簡易な喫茶室、乾き物や数珠などを売っている売店、「特別式場」と銘打たれた場所などいくつかの豪華な雰囲気の入口の式場があったわ。入口からそれらの式場や待合室への作りなどは、ホテルのロビーみたいな雰囲気。広く取られた窓から、西日が差し込んでいた。もう閉まる直前なので、閑散としてた。

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